四時過ぎにテントを出る..まだ星空, 東西の尾根には明かりが
見える。 小屋だろうか?
穂先にも明かりが...もう登山者が。 穂先は狭いと聞く。
私はまだ、槍の穂先へは登ったことがない。
やがて東の空が..。私はこの時間が好きだ ゆっくりと今日が始まる。
朝食は昨日のカレーの残りをチキンラーメンで流し込む。
今日も移動十時間程の予定、少しバテ気味か..食欲がない。
五時半過ぎ出発。 穂先まで六時間、西岳テン場まで三時間半ぐらいか
穂先までは尾根通しに行けるとか行けないとか...右下千丈沢側に
トラバース道が見える。 ほとんどの方がトラバース道を選ぶようだが、
私は尾根通しに拘りたい。 北鎌尾根の主、小池さんのおすすめコース。
独標は2899m、穂先は3180m標高差は裏山ほどしかないが滑落と落石
に注意して慎重に進む、崩れやすいガレを這い上がり下り、つまれば右を
覘き、左を覘く。
まるで迷路箱のねずみのように..!
北鎌平の手前辺りか、完全に前が切れている。
真新しいザイルが左の天上沢側に垂らしてある、降りてみるがルートが
掴めない。
登り返して千丈沢側にザイルを振り、ズリ降りてみると踏み跡もあり稜線へ
戻れそうだ。
あまりの暑さにドン亀組は小ピーク一つ越せば岩陰で一休み。
岩の冷たさがここちよいそのまま眠りたい気分。
そうこう繰り返しているうち野営跡に出る、北鎌平だ。
巌に慰霊板がモルタルで貼り付けてある。「春雪の北鎌に逝く」
穂先が墓標に見える。
上空をヘリが舞う、私達を見つけたのか様子を伺うように立ち去った。
ここからは一気に登りになるが踏み跡ははっきりしている。
這い上がっていくと有名なレリーフが現れた、巌に打ち付けてある。
もう少しだ!
さらに登ると巌の裂け目に出る、「下のチムニ−」と呼ばれるところのようだ。
左巌上部にスリングが垂れている。 登りつめ左手にスリングを巻き右手で
右巌の手がかりを探る、跨ぐ様な格好で右巌に移る。
一気に上体を巌の上へ...力が抜けた。 手がかりが剥がれたのだ。
目の前が真っ白になり、断崖が脳裏に映った、墜落だ!
落ちたのは相方の背中の上、覆いかぶさるように...
相方が背中で受け止めてくれたのだ。 これ以上落ちないように必死で
こらえた..数秒間はそのままの状態...相方に声をかけたがうなり声を
上げただけ...装備重量90キロ以上の者を6mの高さから受けたのだから
大丈夫なわけがない。
ゆっくりと転がるように退いた。 幸い地面に手を付いた時の切り傷のみで
済んだ。 私は左足膝辺りの打撲、消毒をしバンデリンを塗りこみ包帯を
まいて一休止。 ふと下を見ると一人登ってくるのが見える。
ハーネス装備のクライマーさんだ。 その方も北鎌沢でルートを間違え苦労
したそうな...。相方は先に私が落ちたところ登りつめたがクライマーさんは
右に巻いて「こっちが楽だよ!」と声をかけてきた。
私は声の方を登った、確かに苦もなく登り詰めた。
また、巌が現れたこれが「上のチムニ−」今度は難無く乗り越えられた。
数歩登って小さなテラスに出ると上から声がする、見上げると人が見える。
おお!着いたのだ。
座り込んで北鎌尾根をしばらく見つめた。
相方が声をかけてきた「上で休もう!」
私にはここが頂上、何の喧騒もない。
この山行では勉強させられた。 体で観る事を...。














