短編小説集。山好きの著者だけあってすべて山に関わっている。小説だからフィクションである。フィクションだがほぼ体験にもとづいたものだろう。著者と等身大の主人公(比沼)は、尋常小学校の男子同級生40人の約半数を戦死で失う。
●「八ヶ岳にて」‥‥子供らから慕われていたその担任の教師は、徴兵され戦地から復員してきてから、深酒し嫌われ者に変わってしまう。比沼は6年の時その青年教師に引率されて登った権現岳に再び登り、その教師がなぜ変わってしまったのか回想し、兵役の非人間性を告発する。
●「雹の降る丹沢」‥‥東京に出た同級生が苦学生活に疲れて海軍航空隊に志願する。厚木基地の上等飛行兵曹だった彼は丹沢山中に墜落、死亡する。後年「丹沢山中に墜落機ー残がいと白骨発見」という新聞記事を見て、丹沢山塊の蛭ヶ岳登山を思い立ち、同級生を回想する。
●「霧の南アルプス」‥‥当時「兵隊に行くのを嫌い、入営を拒否して山で死んだ」という、北岳で遭難した同級生の噂が広がった。後年その同級生の遭難碑を訪ねて北岳をめざしたが、遭遇したのは浩宮の一行。大随行軍団のためにぎゅうぎゅう詰にされた山小屋の気分を描く。
●「雁ヶ腹摺山」‥‥小学校の同級生が転校した先の金鉱精錬所が閉鎖になり、生活に窮した老坑夫らが炭焼きを始めたが、恩賜林を切り出してしまう。監視員をしていた同級生も懲役刑を受け、ために遅れて入営した彼が「前科者」扱いされる悲惨を描く。
●「富士山頂まで」‥‥反戦活動で入獄し、南方の島に送られていた5年間、母親は村から80キロも離れた三峰神社へ願かけに毎年通い、浅間大社奥宮めざして富士山頂にも登ったことを没後耳にして富士登山を思い立つ。
「日本じゅうの若い衆が、みんな戦争に行っていたときじゃ、表向きは戦争祈願ーーといって登るんじゃが、出征しているわが子の無事を祈りに登る親や、老人などが多いようじゃったな‥‥」という叔母の話はリアリティがある。




