著者がエベレストに登頂したのは1975年5月、35才の時である。3才の女児の母だった。そのエベレスト登頂までの著者の山登り半生記。半生を語るにはちと早い年代だが、何しろ女性として世界で初めてエベレストに登頂したのだから注目されて致し方ない。
この本の半分以上は女性だけのパーティで登ったアンナプルナ峰とエベレストの二つの8000級の登頂記が占める。感情的になりやすい女性登山隊は「女のたたかい」でもあったと赤裸々に記されている。
エベレスト登頂の際には7000越のローツェフェースで雪崩に巻き込まれる。一時は登頂中止かという事態に追い込まれるが、類い稀なる意志で登頂にこぎつける。それだけでなく著者らは企画の段階からさまざまな困難に追い込まれるが、企画を実現させエベレストに立てたことについて「アンナプルナ以来、ヒマラヤ登山は技術とか体力も必要だが、特に必要なのは『本当にやるんだ!行くんだ!』という意思だと思うようになっている」と述べている。
事ほど左様に山狂いを自認している著者のことである。山キチは多々あれど、それほどに希有な山狂いはどうして生まれたのかと自ずと興味がわく。
「中学から高校時代は、毎日がバイオリンとピアノとコーラスの練習に占められいる平凡な女生徒にすぎなかった。しかし、ゆっくりでも一歩ずつでも登れば頂上に立てるということが、体育に劣っていた私に自信を持たせたのは確かなことだった」「ただひたすら、一歩一歩登るという行為、何のためなどという理屈もなにもなく、ただ体を使う動作の中に私は自分の確かな存在を意識することが出来た。そして頂に立つというひとつの区切りある山登りが、私に確かな満足感を与えた。山をとりまく自然の広がり、空気、あらゆるものが体中の臓器にしみわたる。ここにいる自分が本当の自分なんだ、一歩一歩汗して歩いたからこそ今ここにいるんだという自己存在を、私は山登りによって存分に味わうことができた」と山登りの魅力を語る。
登山は自己の存在を確認するきわめて人間的営為といえる。だから登山は古来より万人を引き付けてやまないのだろう。
この作品は最初1979年12月「山と渓谷社」から出版された。yama-kei classicシリーズの一冊として、新たな解説などもくわわり復刻版が発行されている。




